多くの人は、前もって「やること」と決めたことを実行できないと自責の念にかられます。
- 意志が弱かった
- やる気が足りなかった
- 自分はだらしない
「意志力が弱いから、行動できなかった」と多くの人が考えます。
しかし、行動科学・心理学の観点から見ると、
この自己評価は正確なものとは言えません。
結論から言えば、人間の行動の多くは意志力ではなく、環境と習慣によって決まっています。
日常の行動の大半が、無意識と環境によって自動的に近い感覚で決まっているのです。
「意志力があれば動ける」は本当か?
自我消耗(Ego Depletion)という心理学の概念があります。
自我消耗とは、意志力や自制心が使うほど消耗するという考え方です。
我慢、判断、集中は同じリソースを使うため、使い続けると後半ほど行動の質が落ちやすくなります。
自我消耗は心理学者のロイ・バウマイスターらが提唱した理論です。
人間の「実行機能(セルフコントロール)」を一つの共有された資源(リソース)だと考えます。
感情を抑える、誘惑に勝つ、難しい判断を下すといったものは、同じ資源(リソース)を消費します。
そのため朝から我慢を続けていると、資源が尽きてしまい、夜には判断をすることができなくなってしまう、ということが起こります。
一日中、
- 判断を迫られる
- 我慢を強いられる
- 集中力を使い続ける
ということをしていると、
- 甘いものを食べやすくなる(誘惑に弱くなる)
- 先延ばしが増える(決断力が弱体化する)
- 衝動的な選択をしやすくなる(感情が優先)
という傾向がでてきます。
もうリソースを使い果たしているので、抑制する能力が働かないのです。
これらからわかることは、
行動できないのは
意志力が弱いからではなく、
意志を使いすぎているから
ということです。
前頭前野が疲れると、人は決められなくなる
脳の司令塔である前頭前野は、思考や計画、感情の抑制、決断などを担う高度な部位です。
その分、エネルギー消費も大きく、負荷がかかりすぎると働きが落ちやすくなります。
そのため前頭前野に負荷がかかりすぎると、ガス欠が起こりやすくなります。
前頭前野は人間らしい高度な機能を担っています。
何か「決断」するときに、脳内では以下のような高負荷の処理が行われています。
- 情報の照合:過去の記憶からデータを引き出す
- 未来予測:「〇〇を選んだらどうなるか?」というシミュレーション
- 価値判断:「今の自分にとってはどちらが重要だ」という重み付け
- 衝動の抑制:本能を抑え、理性的な選択をする
決断するには莫大なエネルギーが必要なのです。
前頭前野にも処理容量があるため、エネルギーを使い切ってしまうと、省エネモードに切り替えてしまいます。
すると思考力、計画力、抑制力、決断力のすべてが低下してしまうのです。
疲れた脳は「習慣」に従う
省エネモードになると、主導権を握るのが脳の基底核です。
基底核は、繰り返し行う行動や、手順が決まっている動作を自動的に実行する回路です。
たとえば歯磨きをするとき、
「どこから磨くか」を毎回考えなくても、いつもの順番で動けるはずです。
これは前頭前野ではなく、基底核が主導している状態です。
基底核が「習慣」を作り出していて、脳が省エネモードで動いてくれます。 つまり、習慣とは、 脳がエネルギーを節約するためにつくった自動回路 なのです。
疲れたときに、
ダラダラとスマホを手に取る
いつもの動画を再生する
何も考えなくてもいい選択をする
といった行動に流れやすいのは、省エネモードで実行される習慣がそう設計されているからです。
しかし、疲れていても
- 運動をしに行く
- 勉強をする
となる人は、これが省エネモードのときの行動になっているのです。
◆ 構造と選択
構造:脳は疲れると意志力よりも省エネと習慣を優先する
選択:意志力に頼るのではなく、行動が自動で起きる環境と習慣を設計する
まとめ
行動する人は「考えなくてもできる」ようにしています。
ある状態になると、行動が呼び起こされるように環境を整えていて、
脳はそれに従って反応しているだけです。
- 意志力は有限です。
- 判断には莫大なエネルギーが消費され、脳は疲れます。
- 脳は疲れると省エネモードに切り替わります。
このようなメカニズムを無視して、意志力で
- 頑張ろう
- 気合を入れよう
としても、長くは続きません。
では、何が必要なのか?
それは、
意思力を使わなくても動くように構造・環境をつくること
です。
人間は意志で行動していると捉えるのは正確ではありません。
行動の大半は環境で決まり、省エネモード時に起動する習慣で決まっています。
行動できないのは意志が弱いからではありません。
「習慣化する方法・メカニズムを利用していない」からです。
次回から意志力に頼らない習慣化の方法について、さらに掘り下げていきます。
